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「書」は、「美術」か?「文学」か? -後編-

「書」だからというだけで、おしなべて「美術の著作物」に分類されることに違和感を覚える方がおられるかもしれません。例えば、自作の俳句、短歌、漢詩などをボールペンでノートに書き綴ると「言語の著作物」となり、墨と毛筆で和紙にしたためると「美術の著作物」となるのでしょうか。

そもそも、「書」を「言語の著作物」または「美術の著作物」のどちらか一方に分類しようとしても収まりが悪いのです。仮に、「書」が「言語の著作物」だとすると、作品中の文字をコピーしても、バラバラに利用する分には問題がないことになってしまいます。一方、「書」を「美術の著作物」に限定すると、作品中(俳句、短歌、漢詩など)の文字の書体を変えて利用すれば、複製の問題は生じないことになってしまいます。複製の問題が生じるのは、文字が「そのままの形で再製されている場合のみ」とされているからです(「動書」複製主張事件:東京地裁平成元年11月10日)。このように、「書」に書かれているのが、「文字」なのか、「言葉」なのか、二者択一で定義づけようとしてもしっくりきません。

それでも、「書」は「美術の著作物」に分類されています。遡ると、現行著作権法制定前の文部省著作権制度審議会答申説明書(1966年)に「書は、…(略)…美術の著作物として保護されるべきもの」とあります。つまり、立法当初から「書」は「美術の著作物」として保護することが想定されているのです。

「書」の題材となるのはいにしえの漢詩や和歌などであることが多く、それらはパブリックドメインです。また、書籍のタイトルやキャッチフレーズなどの“短い言葉“は著作物ではないとされるように、「書」に書かれた「言葉」も”短い言葉“であるとして著作物とはされないかもしれません。そのため、「書」を著作物として保護するためには、「美術の著作物」に分類するのが適当だとされたのでしょう。ただし、「書」の題材によっては、当然に、「言語の著作物」として保護されるべき場合もあると考えられます。

あらゆる著作物が、著作権法の定める分類にすべて当てはまるというわけではありません。その代表的な例として、しばしば将棋や囲碁の棋譜が挙げられます。さて、米国の現代美術家リチャード・プリンスの “The Housewife and the Grocer”(1988年)《主婦と食料品屋》という作品があります。これは7行の文章をカンヴァスにアクリル絵具で“描いた”作品です。この作品は、「美術の著作物」でしょうか?「言語の著作物」でしょうか?

(Blau=Baum)

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