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著作権を登録する意味は? ー著作権登録制度ー
著作権登録制度とは
著作権法には、一定の法的効果を発生させるために、登録制度が設けられています。ただし、ここで言う登録とは、権利の発生または保護に必要となるものではありません。そもそも著作権は、何らの手続きや届出をすることなく、著作物の創作と同時に発生するものです。
著作権登録制度には、「著作権関係の法律事実を公示する」、「著作権が移転した場合の取引の安全を確保する」といった効果があります。登録の申請は、文化庁に行います。登録がなされると文化庁のデータベースに登載され、「登録年月日」、「著作物の題号」、「著作者の氏名」が検索可能となります。
実際のところ、どんな場面で登録の必要があるのか、または登録するメリットがあるのか、よくわからないという方も多いのではないでしょうか。そこで、いくつか事例をご紹介します。
(事例1:「実名の登録」とは?)
ペンネームでWebマンガを描いています。決して有名なわけではありませんが、ありがたいことに一定数のファンがいます。ただ、本業があるので、実名を明かすことはできません。
気になっているのは、保護期間のことです。ペンネームの場合、保護期間が短くなると聞いています。定年退職した後なら、実名が明らかになるのは構いません。何か良い方法はありませんか?
→「実名の登録」とは、無名または変名で公表された著作物の著作者が、その実名を登録する制度です。登録された者は、その著作物の著作者と法律上推定されます。通常、無名または変名で公表された著作物の保護期間は公表後70年とされますが、この登録を受けることによって、実名で公表された著作物と同様、保護期間が著作者の死後70年になります。
なお、「変名」とは、ペンネーム、雅号、芸名、通名、ハンドルネームなどのことをいいます。
*「保護期間」:「無名又は変名の著作物」の項参照。
(事例2:「著作権の譲渡の登録」とは?)
当社(X社)は、自社のサイトに掲載するための写真の撮影を写真家Aに依頼しました。当該写真の著作権は、Aから当社へ譲渡されました。きちんと契約書も作成しました。
あるとき、この写真が不動産会社Y社のパンフレットに使われていることがわかりました。しかしながら、AからもY社からも何の連絡もありません。当然、当社は許諾をしておりません。どうやらAがY社に、かってにこの写真の利用を許諾しているようなのです。この場合、著作権を譲り受けている当社は、Y社に著作権を主張できるのでしょうか?
→「著作権の譲渡の登録」とは、その登録により権利の移転を明らかにするための制度です。「著作権の譲渡の登録」は、その法的効果から「第三者対抗要件としての登録」とも言われます。
著作権が、別々の二人に譲渡された場合、譲受人が二人になってしまいます(これを、「二重譲渡」と言います)。この場合、どちらが著作権を有するのか、争いが生じてしまいます。しかし、「著作権の譲渡の登録」があれば、登録名義人が著作権者として法律上取り扱われることになります。つまり、登録名義人は登録をしていないもう一方の譲受人に「対抗」できるというわけです。ちなみに、契約をどちらが早く締結したかは関係がありません。
さて、上記事例の場合、Y社は著作権を譲り受けているわけではなく、Aから利用許諾を受けているだけです。そのため、正確には「二重譲渡」とはいえません。それでも、ある裁判では「二重譲渡」の場合と同様に扱われています(東京地裁平成16年1月28日判決)。つまり、X社がY社に対抗するためには、「著作権の譲渡の登録」が必要であるとされたのです。これは、X社が先に譲渡を受けているにも関わらず、「著作権の譲渡の登録」がない限り、X社はY社に権利を主張できないということを意味します。
「著作権の譲渡の登録」には、こうしたトラブルを回避し、「取引の安全」を確保するという効果があります。
(事例3:「第一発行(公表)年月日の登録」とは?)
先日、懇意にしている広告代理店A社の依頼を受けて私が描いた広告用のイラストについて、他のイラストレータが「自分の作品を真似している」としてクレームを入れてきました。もちろん、身に覚えのない話です。
そこで、A社からのオファー、制作期間、公表された日付などを時系列で説明することになりました。そのために依頼主であるA社も巻き込んで、大変な手間を取らせることになってしまいました。結果的に、私が作品を完成させた日、公表された日が、相手方の作品の制作日よりも早かったことが判明して、誤解を解くことができました。
今回は、依頼主であるA社がしっかりしたところで、契約書をきちんと作成していたことや業務上の記録を残していたこともあって、証明がしやすかったので良かったものの、取引先によってはいい加減なところもあります。
今後、こうしたリスクを回避するには、どのような方法が考えられますか?
→「第一発行(公表)年月日の登録」とは、著作物を最初に発行または公表した日付を登録する制度です。この登録により、反証がない限り、登録年月日にその著作物が最初に発行され、または公表されたことが法律上推定されます。
上記事例のようなリスクの回避を考えるならば、「発行日(または公表日)の証明が有利になる」という点で、「第一発行(公表)年月日の登録」は一つの方法と言えるでしょう。ただし、摸倣(意図的に他者の作品を真似て創作すること)かどうかは、発行日(または、公表日)の早い遅いだけで決まるわけではありません。著作権法では、自他の作品がたまたま似ているだけであれば模倣の問題は生じません。仮に、相手方が制作・公表したとする日付が、自分が登録した「第一発行(公表)年月日」よりも前であれば、他の方法で模倣でないことを明らかにしていくことになります。
なお、「第一発行(公表)年月日の登録」には、著作権の保護期間の起算日を明らかにできるという効果があります。法人や団体名義の著作物の場合、そもそも著作者の「死亡」を観念できないため、これらの著作物については公表後70年を保護期間としているわけです。ただ、これらの著作物の公表日がいつであるかはあやふやになりがちで、その著作物の財産的価値がはっきりしなくなってしまうことがあります。そこで、保護期間の起算日を公表時とする著作物の場合には、「第一発行(公表)年月日の登録」をすることによって、そうした問題に悩まされずに済むようにしておくのです。
(事例4:「プログラムの著作物の創作年月日等の登録」とは?)
弊社は、プロジェクションマッピングの制作をしています。こうしたプログラムは、当然ながら、公表することはありません。しかしながら、競合他社との関係で、どちらがそのプログラムを先に創作したのかが問題にならないとも限りません。そこで、「創作年月日の登録」を検討しています。
→プログラムの著作物にだけ認められているものに、「創作年月日の登録」があります。プログラムの著作物の著作者が登録を行うことができます。その特徴は、未公表であっても創作後6ヶ月以内の申請であれば、登録が可能であるということです。
「創作年月日の登録」により、反証がない限り、その登録された年月日にプログラムの著作物の創作がなされたものとの推定を受けることができます。未公表のプログラムの著作物であって、それが法人の著作物である場合、その保護期間は創作後70年とされています。ですが、こうした著作物の場合、保護期間の起算日があやふやになってしまうことも少なくありません。そこで、「創作年月日の登録」をしておくことで、保護期間の起算日を明確にしておくのです。
なお、事例のような模倣対策の場合、登録日の先後だけで模倣の有無が決定づけられるわけではないことに留意しなければなりません。つまり、「創作年月日の登録」だけで模倣対策がなされたということにはなりません。創作過程の資料やメモも証拠として保存しておくことが重要です。
プログラムの著作物も他の著作物同様、実名の登録、第一発行(公表)年月日の登録、著作権の登録(著作権の譲渡の登録など)ができます。
*プログラムの著作物の登録については、指定登録機関として(財)ソフトウェア情報センター(略称:SOFTIC)が指定されています。プログラムの著作物の登録業務は、SOFTICが行っています。
その他にも、以下のような登録をすることができます。
著作権の信託の登録
信託とは、自分(委託者)の財産権を信頼できる人(受託者)に移転し、一定の目的に従って、受託者がある人(受益者)のためにその財産権を管理・処分するという制度です。信託は、通常、信託契約によって行われます。
信託がなされると、著作権が受託者に移転することとなります。著作権が、別々の受託者二人に移転された場合、どちらが著作権を有するのか(受託者となるのか)争いが生じます。しかし、著作権の信託の登録があれば、登録名義人が著作権者(受託者)として法律上取り扱われることになります。
著作権の信託の登録には、こうしたトラブルを回避し、「取引の安全」を確保するという効果があります。
著作権を目的とした質権設定等の登録関係
質権は、著作権を担保とした著作権者が、債権者との間で質権設定契約を締結することにより発生します。登録は、著作権を目的とする質権の設定、移転、変更もしくは消滅または処分の制限の場合に行います。
著作権の譲渡の登録の場合と同様、第三者対抗要件を具備することを目的として登録を行います。
出版権の設定等の登録関係
出版権の設定、移転等、または出版権を目的とする質権の設定等があった場合に、出版権の登録をする制度です。出版権の登録申請を行うにあたっては、出版権設定契約を締結する必要があります。
出版権設定契約とは、出版社などが著作者との間で取り決めるもので、書籍など(図書・図画)を出版するための複製権の独占的利用許諾のことです。出版社などに出版権が設定された場合、著作者自身も出版行為を行うことはできません。
インターネット送信による電子出版を行う場合にも、出版権を設定することができます。著作権の譲渡の登録の場合と同様、第三者対抗要件を具備することを目的として登録を行います。
著作隣接権の移転等の登録関係
著作隣接権の譲渡や質権の設定があった場合に登録をする制度です。
著作隣接権とは、実演家、レコード製作者、放送事業者、有線放送事業者に認められる権利のことです。例えば、実演家には、自分の実演を録音・録画する権利(録音権・録画権)、インターネットのホームページなどを用いて公衆からの求めに応じて自動的に送信できるようにする権利(送信可能化権)などがあります。
著作権の譲渡の登録の場合と同様、第三者対抗要件を具備することを目的として登録を行います。詳細については、別途お問い合わせください。
*それぞれの登録の「申請できる者」については、要件が定められている場合があります。詳細は、お問合せください。