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「ムーンショット目標」とアバターの権利 ―その2―

 「ムーンショット目標1:2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現」と掲げられているわけですが、その説明には「2030年までに、1つのタスクに対して、1人で10体以上のアバターを、アバター1体の場合と同等の速度、精度で操作できる技術を開発し、その運用等に必要な基盤を構築する。」との記載があります。アバターとはゲームやインターネット上でユーザーの分身となるキャラクターのことだと、これまではおおまかに理解がされてきたように思います。

 オンラインゲームに参加したプレイヤーがコントローラなどでゲーム中のアバターを操作するということがあります。このアバターは、プレイヤーが別のプレイヤーに変わっても同じ外見のままです。つまり、同じアバターを全プレイヤーが共有しているのと同じような状態と言えます。ゲームによっては、アバターのファッション、ヘアスタイル、メイクなどをプレイヤーの好みに合わせて変えることができる場合もありますが、その変化は限定的です。一般的に、アバターに関わる知的財産権はそのゲームを制作した会社に帰属していると考えられます。結局のところ、この場合のアバターはあくまでゲームの中の登場人物またはキャラクターであって、現実世界のプレイヤーと法律上または人格権上の関係はありません。

 しかし、仮想空間でアバターが「ビジネスをする」、「創作活動を行う」となると、「ただのキャラクター」と扱うわけにはいかなくなります。仮想空間で利用するためにユーザーがオリジナルのアバターを創作した場合には、現実世界での法律上または人格権上の関係においても事情が違ってきます。このアバターが著作物であると評価し得るならば、その著作権は創作をしたユーザーに帰属します。3Dデザイナー等に制作を依頼した場合には、ユーザーは著作権を譲受し、著作権者となる旨の取り決めをするでしょう。つまり、ゲームの場合とは違い、同じ「ワールド」(仮想空間)の中で、複数のユーザーが同じアバターを共有するようなことにはなりません。このオリジナルのアバターは現実世界における姿形に代わって「ワールド」の中でのユーザーを表象する造形物であり、アイデンティティの重要な要素を構成し、さらにはユーザーの人格に直結するものともなり得るでしょう。そうしたことから、アバターに対する誹謗中傷、名誉棄損などの問題が生じることが想定されています。SNSにおける誹謗中傷等がすでに社会問題となっていることを考えれば、当然のことです。しかも、仮想空間が「新たな生活空間として確立」し、「文化芸術活動における主要な表現の場となる」と、深刻な影響を被るユーザーの範囲はSNSの場合よりも広いものとなるかもしれません。

 こうした問題を先取りしているのが、バーチャルYouTuber(VTuber)です。YouTuberが演者自ら画面に登場するのに対して、VTuberはCG、イラスト等を基にした2Dまたは3Dのアバターの姿で登場します。すなわち、アバターを用いて「ビジネスをする」、「創作活動を行う」ということをすでに行っているわけです。ただ、一口にVTuberと言っても、アバターと演者の関係をどう捉えるかによって「タイプ分け」をしておく必要があります。

(1)画面上のアバターが、動画の企画・話の内容などから演者と同一視される場合。

(2)画面上のアバターは演者とは切り離されており、あたかもアバターが独立した人格を有しているように見られる場合。

 大雑把ではありますが、上記2つのタイプに分類することができます。いずれの場合も直接的にまたは間接的に誹謗中傷等の対象となるリスクがあります。しかし、(2)の場合には人格権侵害に対抗するのは難しいだろうとも言われています。それは、侵害の矛先はあくまでアバターに向いているのであって、演者本人に向けられてはいないとみなされるからです。そうしたことから、アバターに名誉権、肖像権、パブリシティ権等を認めることが必要なのではないかとの議論も一部では行われているようです。

 人格の保護ということで言えば、著作権法には著作者人格権の規定があります。著作者人格権とは、著作者の人格を保護するために認められている権利のことです。公表権、氏名表示権、同一性保持権(著作権法18条~20条)、名誉回復等の措置(同115条)があります。アバターが著作物であるならば、こうした権利を行使することも可能です。しかし、アバターの著作者を保護することと、アバターのユーザーを保護することとではやはり違いがあります。著作者人格権は譲渡の対象となりません。例えばアバターが3Dデザイナーの創作によるものである場合、ユーザーが著作権(著作財産権)を譲受しても著作者人格権はその3Dデザイナーに留保されるので、アバターのユーザーが自ら著作者人格権を行使することはできません。結局、著作者人格権を効果的に行使できる場面も限定的ということになりそうです。

「ムーンショット目標1」では「1つのタスクに対して」という前提になってはいますが、ひょっとすると一人のユーザーが複数の「ワールド」で、複数のタスクに対して、複数のアバターを空間、時間の制約なく利用するようになるかもしれません。他人がアバターを乗っ取るということがないように、なりすまし対策が必要になるのは当然です。また、各アバターが本人のコントロール下にあったとしても、アバター同士の利益相反が生じた場合についての検討も必要になるでしょう。一人のユーザーが複数のアバターを操作し、そのアバター同士の利害が相容れない事態となった結果、他のアバターおよびそのユーザーに損害が生じないとも限りません。さらには、それぞれのアバターに別々の人格権があるとするなら、インサイダー取引のようなことがまかり通ることにもなりかねません。こうしたことを考え始めるとキリがありません。

 文化庁報告書(3月29日付)には、NFTに関する法律や制度の整備について、「世界的に遅れをとっている。」との指摘がありましたが、「アバターの権利」についても似たような状況と言えそうです。仮想空間を提供するプラットフォーマーである「会社」が、利用規約などの形でルールを定めているのが現状ですが、そのルールは仮想空間で活動するうえで遵守すべき「法律」となるものです。GAFAに代表される巨大IT企業の経済規模が「国家」を凌駕するのではないかとの話はこれまでもされてきましたが、仮想空間のプラットフォーマー企業が「法律」を作るとなれば、「主権国家」がその地位が揺るがされることになります。1648年からは「国家が国内を統治する」というのが、建前上のルールとされてきたわけですが、そのルールもしょせんは「国境で区切られた固有の領土を有する」という「国家」の定義のうえでの話です。果たして「会社」が「国家」を凌駕する日は来るのでしょうか?ちなみに、「攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL」、「PSYCHO-PASS サイコパス」または「ヨルムンガンド」には、ちゃんと「主権国家」としての日本が存在しています。

(おわり)

(Blau=Baum)

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